2021-01-01から1年間の記事一覧

2021年9月29日(水)

心臓の鼓動にあわせて涙はあふれ、それは生きている糸のようにこめかみを這って後頭部にまわりこみ、首にからみついてウィステリアの息の根を止めようとする。彼女は暗闇の中で嗚咽する。そして思う。あんな赤ん坊はどこにもいない。この世界のどこを探した…

2021年9月25日(土)

真夜中がにがてな子どもだった。睡魔に負けてしまうという意味ではなく、真夜中にぽつねんと起きていることが、どうしても。夜の夜たる核が膨らみ、重力と混じりあってわたしを覆うような、そういう感覚があった。眠れない日なんて最悪だ。『丑三つ時』と『…

2021年9月22日(水)

こっちには根本を考えるあまり、おまえのような状態になりたいという気持ちをもった人が少なからずいますよ。それはね、死にたいとかそういうことではなくて、生まれてこなかったことにしたいなあ、できたら、というように考える人もたくさんいるということ…

2021年9月19日(日)

わたしは黙って絵を見つめ続けた。さっき開いたとき、『村と私』のページが出た。わたしはその絵の中の、白い牛の瞳の真ん中だけをじっと見ていた。今はただ、それだけに意識を集中していろと、自分に命じていた。心臓がどきどきしている。やさしげな白い牛…

2021年9月16日(木)

私は非常に長い間、外の明るい世界にいた。 どよめくような世の営みに私はなずまない。 よそのどちらにも引き寄せられないで、 私は自分の心の中に住んでいたい。 (「雨」部分『ヘッセ詩集』高橋健二 新潮文庫 S25.12) 約3週間の実習が終了した。それまで…

2021年8月16日(月)

弱虫は幸福をもおそれる、と書いたのは太宰だろうか。予期していなかった出来事によって、近頃のわたしは頭が痺れるくらい幸福。それだけなら良いが、絶え間なく皮膚の内側から針で刺されつづけているような不安も感じている。……後者の比喩は過剰な気がする…

2021年7月28日(水)

実際に執筆された時期はわからないが、書かれてからそれほど間をおかずに出版されたとすれば、当時カヴァンはすでに六十代。それなのに、たとえフィクションとはいえ、娘時代に抱いていたはずの思いや感覚を、なんと瑞々しく、いや、生々しく描き出している…

2021年7月15日(木)

近況報告。血液検査の結果を聞きに病院へ行ったら、医者から「多分いつかは遺伝子組み換えができるようになるからね」と励まされた。冗談とも本気とも判断のつかない口調だったので、わたしは曖昧にほほえむしかなかった。それから、いつか遺伝子検査をして…

2021年7月4日(日)

公開日記を1ヶ月ほど更新していなかったのだけど、わたしの感覚としても6月の記憶があまりない。精神保健福祉士の資格を取得するための課程(コース)で、毎週のように発表とその準備があり、目が回るほど忙しかった。大勢の前で口を開くことの抵抗感がす…

2021年5月31日(月)

淡々と、機械的に日々の雑務をこなそうと意識していて、それはある程度成功しているように思う。が、すこしの油断が致命的になる。常に気を張り詰めていなければならない。気落ちして時間を浪費するくらいなら有効的に使いたい。なかなか切り替えられないこ…

2021年5月21日(金)

純粋。それはきわめて危険な人筋道、というよりもっときわどい綱渡りのようなものです。道ならばまだしもひろがりがあり、道草もゆるされます。おなじ野面をあるいてゆく人びととことばを交しあい、それによってなぐさめられ、ゆたかな明日への糧とすること…

2021年5月14日(金)

知人に虚無のうさぎをもらいました。かわいいです。 思い出そう おまえが今よりももっと美しかった昔を おまえは森を駆けめぐり 銀いろの月光にぬれ 緑いろの瞳を闇に燃やした あるときは 背にきらきらと霜がおりたが こいびとの熱い舌が それを溶かした わ…

2021年5月10日(月)

メルカリで購入した詩集の支払い手続きをコンビニで済ませた帰り、蜂に追われる。メルカリで詩集を買った罰かもしれない。メルカリで詩集なんて買わなければ良かった。ああ、メルカリで詩集なんて……。(このフレーズ、気に入った。メルカリで詩集。) 夕方、…

2021年5月7日(金)その2

眠い目をこすりつつ信号が青に転ずるのを待っていたら、車体に「独立した定温の世界へ」と書かれたトラックが通り過ぎていった。初めて見た、あお、あお、つめたい、こおり。できることなら気圧と情緒も安定した世界に連れていってほしい。えーんえんと泣き…

2021年5月7日(金)その1

履歴書ではないけれど、紙面に長所と短所、それに特技を記さねばならず、小一時間うんうん唸る。短所ばかりが思い浮かび、希死念慮という毒が身体に廻りかけたので、インターネットを頼ってありふれたことを書く。特技はピアノにした。でも長いブランクがあ…

2021年5月4日(火)

オーストリアつながりになるが、リルケの『若き詩人への手紙・若き女性への手紙』を読み終えた。手記も詩集も読みさしなのだけど、リルケを読みたいひとに対して訳者がまず勧めるのはこの本らしく、結果的には良かったのかもしれない。 あなたは御自分の詩が…

2021年5月2日(日)

帰省して本を読んだり眠ったりSNSを徘徊したり、ふだんと変わらないことをしている。決定的に異なるのは実家にはワンコがいるということで、彼を目の前にするとわたしの他愛ない思考は頭の片隅に追いやられ、単なる溺愛者になってしまう。わたしが頻繁に帰省…

2021年4月25日(日)

世界史の知識を仕入れる必要性を感じ、すこし勉強している。海外文学をより愉しむためであるし、スーザン・ソンタグの飽くなき知識欲に感化されたのもあるし、他にも理由はある。エルンスト・H・ゴンブリッチ『若い読者のための世界史』……やさしい語り口で良…

2021年4月24日(土)

煩瑣な課題を始末することに追われ、逃げるようにして眠りこけ、過去の出来事に起因した悪夢を見て目を覚ます。それから縋るように本を読んで朝を迎える。これを繰り返す1週間だった。その本はもう読み終えてしまったので困り果てている。 スーザン・ソンタ…

2021年4月18日(日)

『女性俳句の世界』(上野ちさ子/岩波新書)を読み終えた。といっても、こちらは元から関心のあった俳人のみに焦点を当てた。 杉田久女 われにつきゐしサタン離れぬ曼珠沙華 高浜虚子のことを敬い続けていたが、40代の頃に説明もなく同人雑誌『ホトトギス…

2021年4月17日(土)

期限ぎりぎりに『妄想代理人』を観終わったので返却してきた。はげしい雨のなか。この作品は“少年バット”と“マロミ”を共有概念にした連作短編集という感じで、今敏の魅力が詰まっているように思う。回によって趣向が異なるので誰にでも楽しめそう。3話「ダ…

2021年4月16日(金)

『女歌の百年』(道浦母都子/岩波新書)を読み終えた。紹介されている歌人は俵万智、水原紫苑、米川千嘉子、与謝野晶子、山川登美子、茅野雅子、九條武子、柳原白蓮、原阿佐緒、三ヶ島葭子、岡本かの子、中城ふみ子、齋藤史、葛原妙子、河野愛子、森岡貞香、…

2021年4月14日(水)

先週から授業が始まり、あまりの忙しさに疲弊している。4年になったら就活や国試対策などで忙しいにせよ、それらを配慮して授業の課題は減るだろうという考えが甘かった。加えて、オンライン形式の弊害もある。ストレス解消のために本を買ってしまうし、ほ…

2021年4月11日(日)

DMMブックスで電子書籍の割引きをしていると知り、コミックスを13冊購入した。こういった情報の収集源はたいていがツイッターであるため、なかなかやめられない。そのうちの1冊に本を読むキャラクターがいた。漫画や映画の作中人物が本を読むのを好ましく…

2021年4月9日(金)

なんとなくホールデンに会いたくなったので『ライ麦畑でつかまえて』を棚から抜き取り、付箋が貼ってあるページを中心に拾い読みする。「再読」ということばを使うと、初めから終わりまできっちり読み返すべきだという強迫観念(自己暗示)に囚われてしまう。…

2021年4月8日(木)

作家の墓を巡って記録しているひとのサイト 作家の墓 (kajipon.com)があると知ったので閲覧する。初めにラディゲの名前が目にとまり、『ドルジェル伯の舞踏会』をまだ読んでいないことを思い出す。彼が亡くなった年齢に達する前に読みたかったのにね。他には…

2021年4月7日(水)

佐藤信夫によれば「言語」とは「自分の内部の他者」であり、アルチュール・ランボーによれば「私」とは「一つの他者」なのだそう。では「ことば遊びをする私」とはなにか。それは近しいもの同士の戯れを傍観し、その自律性を見守ること。いざとなれば彼らと…

2021年4月6日(火)

生まれてから22年も経つというのに、適切な1人称が見つからない。俺は論外、僕はまだしもぼくは甘い感傷、私はわるくはないけれど。いつか性別を捨て、肉体を脱ぎ、記憶を洗い、透明(なIでもないなにか)になれたらいい。「自分」というのが最もしっく…

列車

大学で国試関連のガイダンスに出席し、朦朧とした頭で模擬試験(のようなもの)を受ける。教室の暖房が効きすぎていたし、人が大勢いた。解答と照らし合わせてみたら正答率は五割を下回っていた。それから附属図書館で岩波新書の『女性俳句の世界』を借りた…