列車

 大学で国試関連のガイダンスに出席し、朦朧とした頭で模擬試験(のようなもの)を受ける。教室の暖房が効きすぎていたし、人が大勢いた。解答と照らし合わせてみたら正答率は五割を下回っていた。それから附属図書館で岩波新書の『女性俳句の世界』を借りたかったけれど、館内を覗いたら明かりがついておらず、誰もいなかった。残念だけれど断念し、ふらふらしながらアパートに戻る。身体が重い。

 夕方、踏切の警報音で眠りが遠のいた。それからすぐに電車が通過し、大きな音を立てて遠のいていった。わたしの暮らすアパートは線路の近くに位置しており、窓を開けながらテレビを観るには適さない。午前のガイダンスがよほど疲れたのか頭が痛いのでアダムを飲んだ。イブとバファリンを試しに服用したこともあるが、効き目はいまいちだった。成分はほとんど変わらないはずなのに不思議。

 なにをするにも面倒で、手近にあった本をパラパラとめくった。すばる1月号(2021)、これにはシルヴィア・プラスの短編が掲載されている。

「あなたはわかってない。この汽車に乗ったのはあたしのせいじゃないのよ。あたしの両親なのよ。あの人たちが行けって言ったのよ」

「 でもご両親があなたの切符を買うのを、あなたは黙って見ていたわけでしょう」女性は執拗に言った。「両親に列車に乗せられても、文句は言わなかったんでしょう? あなたは受け容れた。あなたは反抗しなかったのよ」

「それでも、あたしのせいじゃないわ」メアリは激しい口調で叫んだが、女性の目はじっと彼女に注がれ、青いまなざしが非難を次々に浴びせてきて、メアリは自分がだんだん沈んでいくのを、恥に溺れていくのを感じた。列車の車輪の揺れが、破滅の運命を彼女の脳に叩き込んだ。

シルヴィア・プラス「メアリ・ヴェントゥーラと第九王国」柴田元幸 集英社

 文学的な評価であるとか、文学史における重要性であるとか、そういったことはわたしには関係のないこと。いつになるとも知れぬ短編集の刊行が待ち遠しい。

  列車の連想から、多和田葉子「ゴットハルト鉄道」とシャーリイ・ジャクスン「レディとの旅」も再読した。後者は創元推理文庫の『なんでもない一日』に収録されている、とてもキュートな話。いつの間にか頭痛が治っていたので、これから手紙を書き直して眠る。