2021年5月7日(金)その2

 眠い目をこすりつつ信号が青に転ずるのを待っていたら、車体に「独立した定温の世界へ」と書かれたトラックが通り過ぎていった。初めて見た、あお、あお、つめたい、こおり。できることなら気圧と情緒も安定した世界に連れていってほしい。えーんえんと泣きたくなったので、笹井宏之の短歌を無音で唱え、そうしているうちに大学へたどりついた。永遠を解く力はまだ備わらない。

 帰り、つめたい雨。

 夜、川上未映子の詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』を読み終える。表題作と「少女はおしっこの不安を爆破、心はあせるわ」「ちょっきん、なー」「象の目を焼いても焼いても」が好みだった。切実なことばが乱舞していて、それは自由奔放な語りに思えるのだけど、ことばの打ち方・置き方は緻密な彫刻家のよう。

何かが何かについて語るとき離陸してゆく小林の酔っ払いのぐにゃりった覚悟が俄然輝きましましそこいらの自同律とにせもんをさとす、ひゅー、形式と保身と攻撃が大好きな君らのほんとの大好物はなんですか。ざぶざぶ水には濡れんようにしながら水中での出来事をあーだこーだと語る君らの顔の血色の悪さ人込みの多さ、きゅうりでも食べり。君らの座ってる椅子はどこ製なん、誰が何についてどの真剣さで、ま、傍観者の都合主義はつまるところどうでもいいやろ、いいけど、まあまあするめでも食べり。よう噛み。せせらって笑うこと、わたしにはわからんねん、わたしにはそんなふうな安全確保の趣味のよさか悪さはまったきわからんからそんな君らとは知り合わない。

川上未映子「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」ちくま文庫 2021.4)

 音読してみたくなるのだけど、関西弁の使い手ではないのでうまくいかない。合わせて川上未映子多和田葉子の対談(『六つの惑星』)も再読した。