2024年6月14日(金)

江國香織『物語のなかとそと』朝日文庫 2021.3 子供のころ、私は夢をもっていませんでしたし、打ち込めるものも好奇心もありませんでした。友達も、そうたくさんはいませんでした。では毎日何をしていたのかというと、ただ見ていた。他人を、世界を、自分と…

2024年6月9日(日)

サリンジャー『フラニーとズーイ』村上春樹 新潮文庫 H26.3(再読) 「彼らは詩人なんかじゃない」とフラニーは言った。「それがめげちゃうことのひとつなのよ。私が言いたいのは、本物の詩人じゃないってこと。彼らは詩を書いているし、あちこちに掲載され…

2024年6月8日(土)

川野芽生『幻象録』泥文庫 2024.5 「言葉」についてもそう。わたしは言葉を愛していて、言葉よりほかのものを持たないのだけれど、言葉は決して罪のないものではなく、そこにはこの社会の権力構造が内包されていて、言葉を使うたびにわたしは裏切られるより…

2024年6月2日(日)その2

江國香織『すみれの花の砂糖づけ』新潮文庫 H14.12 遊びにいってきます と いって おもてにでても どうしていいかわからずに へいにもたれて 立っていた。 せかいぜんぶをむこうにまわし ひとりぼっちだった あの日。 しじみちょうと とかげだけは すこし 仲…

2024年6月2日(日)その1

ダニロ・キシュ『若き日の哀しみ』山崎佳代子 創元ライブラリ 2013.9 「この世に正義はないのだ」と、心のなかで少年は言った。「人間にも、猫にも」 それから、傍らの大きい石を見つけ、それを持ち上げるといきなり落とした。一匹の子猫がゴム人形のように…

2024年5月30日(木)

江國香織『雨はコーラがのめない』新潮文庫 H19.7(再読) はじめて雨に会った日のことは、忘れられない。凍えそうに寒い、十二月の、雨の日だった。そのすこし前から、私はまるで幽霊みたいに日々を暮らしていて、その日もまるで幽霊みたいに、雨だというの…

2024年5月26日(日)

シーグリッド・ヌーネス『友だち』村松潔 新潮社(クレスト・ブックス) 2020.1 世間の無関心にひどく苦しめられた天才として、ウルフはキーツとともにフローベールの名前をあげている。しかし、フローベールは――女流アーティストはみんな淫売だと言った彼は…

2024年5月18日(土)その3

工藤綏夫『ニーチェ■人と思想22』清水書院 1967.12 ニーチェにとって女性とは、ギリシア市民たちの女性観がそうであったように、愛の対象というよりはむしろ、男のために家政をととのえ、強健な子どもを生み育てるという使命を果たすべきものであった。この…

2024年5月18日(土)その2

イ・ミンギョン『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』すんみ・小山内園子 タバブックス 2018.12 「なにをそこまで」と同じ類のことばは、だれもが一度は口にしたことがあるほど日常茶飯事に使われていて、最も効果的に差別をこの社会から見え…

2024年5月18日(土)その1

多和田葉子「聖女伝説」ちくま文庫 2016.3(再々々読) 人がパンだけで生きるのでないと言われても、パンなんてたくさんある食べ物のほんの一例に過ぎないと思っている子供たちには、ぴんとこなかったのかもしれません。パンの有り難さ、パンという言葉のす…

2024年5月12日(日)

再読 石沢麻依『貝に続く場所にて』講談社 2021.7 映像だけが記憶となるのではない。身体のひとつひとつの部位が記憶を蓄え、それを静かに抱え込む。その身体が抱える残像を、おそらく消せることはないだろう。皮膚は周期ごとに細胞が新たなものになるが、地…

2024年5月11日(土)その2

川口晴美『やがて魔女の森になる』思潮社 2021.10 化粧水と乳液とファンデーションで つなぎとめる アイブロウペンシルとマスカラとリップグロスで 縁取っていく つくりものの「わたし」 いいえ、天然です 健康です と、じぶんにも世界にも言いきかせるよう…

2024年5月11日(土)その1

多和田葉子「変身のためのオピウム」『変身のためのオピウム│球形時間』講談社文芸文庫 2017.10 形容詞こそが大切、名詞はどうでもいい。レダに細い友達がいたら、大切なのはその友達が細いことであって、それが友達であることは、どうでもいい。レダの知り…

2024年5月6日(月)

三角みづ紀『オウバアキル』思潮社 2004.10 救急車には何度も乗った 泣きじゃくる私の 手をとってくれた見知らぬ 彼の (それが社会の義務だったとて) ぬくもりを まだ求めているのかもしれない (「冬のすみか」部分) ちょうどいい位置に 爪をたてる 恥ず…

2024年5月5日(日)その2

穂村弘『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』小学館文庫 2014.2 目覚めたら息まっしろで、これはもう、ほんかくてきよ、ほんかくてき いもうとをやめてあなたのともだちになるわって頬はさんでくれる ママレモンで兎の檻を洗ってる、ふわあふ、ふわあふ…

2024年5月5日(日)その1

ハインツ・ヘーガー『ピンク・トライアングルの男たち――ナチ強制収容所を生き残ったあるゲイの記録』伊藤明子 現代書館 1997.2 いったいどんな世界、どんな人間たちが成人男子に、どのように愛し、誰を愛するべきか指図できるのだろうか? 「国民の健全な感…

2024年5月4日(土)

多和田葉子「海に落とした名前」『ヒナギクのお茶の場合│海に落とした名前』講談社文芸文庫 2020.8 わたしは稚内からコルサコフへ移動したのではない。稚内でひとつのわたしが消え、サハリンにもうひとつ新しいわたしが現れたのだ。第一のわたしは、札幌にい…

2024年4月29日(月)

多和田葉子「ヒナギクのお茶の場合」『ヒナギクのお茶の場合│海に落とした名前』講談社文芸文庫 2020.8 「だから、どうだって言うんです。わたしたちはね、子供はみんなの財産なんていう変な考え方はしないんですよ。」わたしはまるで赤ん坊の母親とわたしが…

2023年10月12日(木)

なにが辛いのかわからない。心が塞ぐ。身体が重くなる。思い当たることは幾つかある。愛犬の具合が夏頃から安定しないこと(想像したくもないがこの子がいなくなったらわたしの人生に価値はなくなる)、良好な関係性を築けていると思っていた患者に不信感を…

2023年10月4日(水)

湖の底に沈んでいるような日が続いていたが、この2日間くらいはそうでもない。呼吸を無意識のうちにできている。なぜ? 気分の落差の要因について、改めて問わなければならない。あしたになったらまた沈んでいるかもしれない。原因と対策。 朝、通勤途中に…

2023年10月2日(月)

世間と隔絶し、黙々と趣味に没頭したり創作に励むような暮らしに憧れる。そういえば、小学生のときの口癖は「隠居したい」だった。いやな子どもだ。じっさい、この暮らしを実現するにはどうすれば良いのだろう? 収入よりも、寂しいという感情を処理すること…

2023年10月1日(日)

米林宏昌監督の『メアリと魔女の花』を観たのだけど、メアリの成長譚としても、異性間の恋愛または友情の物語としても、変身魔法の実験を世代を超えて防ぐ物語としても奥行きが足りなかった。メアリではなく、シャーロット大おばさん(=赤毛の魔女)の過去…

2023年9月26日(火)

出勤中の車内にて大きな希死念慮に襲われる。無になりたい。力が抜ける。さりとて、仕事を辞めればこの気持ちが消えてくれるわけでもない。仕事だけでなく、あらゆることが死への導火線とつながっている。逃げ道はないのだ。大学を出てから今の職場しか知ら…

2023年9月19日(火)

当直明けなので午後は有休にして帰宅。昼食をとり、うつらうつら母の話を聞いていたらうっかりうとうと眠りこけてしまい、気がついたら16時を過ぎていた。こんなことだったら休まず仕事したのに! ただまあ、信頼している上司が家庭内感染してしまい暫くはお…

2023年9月14日(木)

現時点におけるわたしの処理能力を超えた仕事量の日が続いている。そういうときは帰宅後に散文を読もうとしてもあっさりと眠ってしまう。詩を読みたいな、それに短歌も。シルヴィア・プラスをひととおり読んだら、あらためてエミリー・ディキンソンに戻って…

2023年9月12日(火)

働き始めてからの方が、それ以前よりも性別二元論によるしめつけが激しい。たとえば、仕事上で積極的に支援していた患者さんから、ある日唐突に「同性の担当者が良い」という希望をつきつけられる。同性というのは基本的に女性のことを指す(男性が同性から…

2023年9月11日(月)

連休の最終日。3日間毎朝ふだんと同様の時間に起き、総務課の者に言われたことを思い出しては腹が立ち、気がかりな仕事のことを思い出してはお腹が痛くなっていた。働き始めてからの2年間で身体ごと造りかえられたよう。 伽倻琴散調の旋律が甦える。曲がっ…

2023年9月10日(日)

シルヴィア・プラスの再読を始めた。『ベル・ジャー』から始まり短篇集に進み、いまは詩集を読んでいるが、このひとの詩は多彩な顔ぶれに訳されているので違いを楽しめる。ただまあ、叶うことなら全詩集の個人訳が刊行されてほしい気もする。 あるのはこの白…

2023年8月15日(火)

連休最終日。『違国日記』が完結したので、始まりから終わりまでを通して再読していたら日が暮れていた。1冊読むのに1時間かかる。第1巻の初読が3年前で、当時のわたしは22歳くらいだったけれど、人格形成にかなりの影響を受けていたのだなと思った。…

2023年8月14日(月)

お盆ということで、親戚の集まりに参加した。参加するたびに「もう二度と行くか」と決意を新たにするのだけど、今年は祖母が亡くなり初めての盆なので線香をあげに行きたかった。が、やはりもう二度と行きたくない。「好きな人は? 彼女は?」「結婚するの?…