2023年9月10日(日)

 シルヴィア・プラスの再読を始めた。『ベル・ジャー』から始まり短篇集に進み、いまは詩集を読んでいるが、このひとの詩は多彩な顔ぶれに訳されているので違いを楽しめる。ただまあ、叶うことなら全詩集の個人訳が刊行されてほしい気もする。

 

あるのはこの白壁 その上に空はおのずと広がる――

果てしないみどり まったく手が届かない。

天使たちは漂い 星も 冷淡

これが私の媒体。

太陽は光を滴らせ この壁に溶けてゆく。

 

今度は灰色の壁 引っ掻かれて血まみれ。

逃れるすべはないの?

背後の階段は螺旋状に井戸へと続く。

この世界には樹も鳥もいない

あるのはただ酸味だけ。

 

この鮮紅色の壁はしなり続ける

赤いこぶしが 開いては閉じる

ふたつ灰色の うすっぺらな袋――

これこそ私のなりたち これと

十字架と降り注ぐピエタの下で引き回される恐怖。

 

黒壁の上では 正体不明の鳥たちが

頭を旋回させ 唸り声をあげる。

やつらに不滅という言葉はない!

冷たい空白が忍びよる

またたく間にやって来る。

シルヴィア・プラス「胸さわぎ」『湖水を渡って』高田宣子・小久江晴子 思潮社 2001.8)

 

 なんとなくアンナ・カヴァン『草地は緑に輝いて』を開いて奥付を見たら2020年に刊行されていた。当時はさほど印象に残らなかったのだけど、いまこそ必要だという予感がする。カヴァンの陰鬱で冷厳としていて、けれどただ書き殴っているのではない文学を。