2024-01-01から1年間の記事一覧

2024年5月12日(日)

再読 石沢麻依『貝に続く場所にて』講談社 2021.7 映像だけが記憶となるのではない。身体のひとつひとつの部位が記憶を蓄え、それを静かに抱え込む。その身体が抱える残像を、おそらく消せることはないだろう。皮膚は周期ごとに細胞が新たなものになるが、地…

2024年5月11日(土)その2

川口晴美『やがて魔女の森になる』思潮社 2021.10 化粧水と乳液とファンデーションで つなぎとめる アイブロウペンシルとマスカラとリップグロスで 縁取っていく つくりものの「わたし」 いいえ、天然です 健康です と、じぶんにも世界にも言いきかせるよう…

2024年5月11日(土)その1

多和田葉子「変身のためのオピウム」『変身のためのオピウム│球形時間』講談社文芸文庫 2017.10 形容詞こそが大切、名詞はどうでもいい。レダに細い友達がいたら、大切なのはその友達が細いことであって、それが友達であることは、どうでもいい。レダの知り…

2024年5月6日(月)

三角みづ紀『オウバアキル』思潮社 2004.10 救急車には何度も乗った 泣きじゃくる私の 手をとってくれた見知らぬ 彼の (それが社会の義務だったとて) ぬくもりを まだ求めているのかもしれない (「冬のすみか」部分) ちょうどいい位置に 爪をたてる 恥ず…

2024年5月5日(日)その2

穂村弘『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』小学館文庫 2014.2 目覚めたら息まっしろで、これはもう、ほんかくてきよ、ほんかくてき いもうとをやめてあなたのともだちになるわって頬はさんでくれる ママレモンで兎の檻を洗ってる、ふわあふ、ふわあふ…

2024年5月5日(日)その1

ハインツ・ヘーガー『ピンク・トライアングルの男たち――ナチ強制収容所を生き残ったあるゲイの記録』伊藤明子 現代書館 1997.2 いったいどんな世界、どんな人間たちが成人男子に、どのように愛し、誰を愛するべきか指図できるのだろうか? 「国民の健全な感…

2024年5月4日(土)

多和田葉子「海に落とした名前」『ヒナギクのお茶の場合│海に落とした名前』講談社文芸文庫 2020.8 わたしは稚内からコルサコフへ移動したのではない。稚内でひとつのわたしが消え、サハリンにもうひとつ新しいわたしが現れたのだ。第一のわたしは、札幌にい…

2024年4月29日(月)

多和田葉子「ヒナギクのお茶の場合」『ヒナギクのお茶の場合│海に落とした名前』講談社文芸文庫 2020.8 「だから、どうだって言うんです。わたしたちはね、子供はみんなの財産なんていう変な考え方はしないんですよ。」わたしはまるで赤ん坊の母親とわたしが…