2021年9月22日(水)

こっちには根本を考えるあまり、おまえのような状態になりたいという気持ちをもった人が少なからずいますよ。それはね、死にたいとかそういうことではなくて、生まれてこなかったことにしたいなあ、できたら、というように考える人もたくさんいるということです。だから、生まれてしまって今もうここに在ってしまった自分っていうものが、ほんとうのところはなんなのかっていうことも、それなりに考えたりしていなければばらばらになってしまいそうになったりして、それもしんどいものなのですよ。

川上未映子『わたくし率 イン 歯ー、または世界』講談社文庫 2010.7)

 願書を郵便局員へ手渡した日、友人に連れられて寺へ行った。標高の高いところに位置しているからなのか、車外へ出た途端に耳閉感に襲われた。自分の声が頭蓋内で反射し、相手の声は輪郭を削られて届く。欠伸すれば治るよ、と教えてもらったので実践してみると、左耳だけが開いた。

 川上未映子『わたくし率 イン 歯―、または世界』を読んだ。乱雑に絡まった思考回路のような地の文、まるでわたしの頭のなかみたいだ。その語りは型破りなのだけど、構成は優等生的で、奇妙なバランス感覚がある。読者を驚かせる手法なんかはテンプレだと思うのに、この訴求力はなんだろうか。この作者の作品すべてを読みたい。